明日の弁護
人 物
岸本友一(34)無職
岸本友二(32)その弟・無職
岸本武史(54)その父
岸本良子(54)その母
--------------------------------
○増田酒店・外
二階が住居になっている、こじんまりとした店舗。
古びた看板には『増田酒店』とある。
手動の入り口の脇には、タバコや飲料の自動販売機が並んでおり、
その前にスタンドタイプの灰皿が置いてある。
岸本友一(34)と岸本友二(32)が、灰皿を挟み、煙草を吸っている。
2人が同じタイミングで煙を吐き出し、険しい顔で遠くを見つめる。
空に消えていく煙。
雲一つない青空。
2人が同じタイミングで煙草をもみ消し、灰皿に捨てる。
友一「コーヒー買ってくるわ」
店内に入っていく友一。
友二、友一を一瞥し、ポケットから煙草を取り出すが、空っぽ。
空箱の中を見つめる友二。
友一、手ぶらで戻ってくる。
友二「コーヒーは?」
友一「ああ、金無いの忘れてた」
ポケットから煙草を出し、くわえる。
友一を見つめる友二。
友二、空箱をつぶし。
友二「一本ちょうだい」
友一、煙草の箱を見ると、残り一本。
友一、煙草を箱ごと友二に渡す。
友二、驚き。
友二「いいの?」
友二、箱を開けて中を見る。
友二、友一を見て。
友二「いいの?」
友一「いいよ」
2人、煙草に火をつけ、煙を吐く。
友一「まさか、別れて暮らすことになるとはなぁ」
友二「…ずっと一緒に居られると思ってたのにね…」
悲しそうな顔で、遠くを見つめる2人。
○(回想)岸本家・ダイニング
4人掛けのダイニングテーブルの片側に、友一と友二が並んで座っている。
対面には、岸本武史(54)と岸本良子(54)が座っている。
武史「まあ……そういうわけだ」
良子「あなた達が、きちんと就職するまではって思ってたんだけど、ねえ?」
武史「そうだぞ、それが、お前ら、今何歳だ?」
友一「34」
友二「32」
武史、微笑し。
武史「……いつ就職するんだよ」
良子「そうよ、勝手言ってるように聞こえるかもしれないけど、これでも私たち10年以上待ったのよ」
友一、友二、驚き良子を見る。
武史「そうだぞ、母さんの浮気を15年前に知って、それからだから、父さん的には15年待ってることになる」
友一、友二、驚き、武史を見た後、そーっと良子を見る。
良子、照れてうつむく。
友一、友二、げんなり。
武史「正直、直後はきつかったけどな、今では相手の方とも15年の付き合いで、仲良くなって、結婚式にも呼ばれてる」
友一、友二、驚き良子を見る。
良子、照れてうつむく。
良子「一時はねえ、もうお父さん荒れて、荒れて、手が付けられなかったのよ、でもね、あなた達に負担を掛けたくなくて、2人でやって行こうって決めたの…仮面夫婦を」
微笑み合う、武史と良子。
呆気にとられている友一と友二。
良子「本当、長かったわね」
武史「ああ、でもまあ、そのおかげで、俺にも婚約者が出来て、大団円なわけだから、無駄じゃ無かったかな」
友一、友二、驚き武史を見る。
武史、照れてうつむく。
良子「お父さんったらね、20歳以上年下の女を捕まえたのよ」
友一、友二、さらに驚きの表情。
良子「何歳だったかしら?」
武史「えーっと、今年32」
友二「タメじゃん」
良子「あら、タメ?」
武史「あー、タメか」
友一「じゃあ俺より年下だ」
一瞬固まる4人。
4人顔を見合わせて笑い始める。
幸せそうな笑顔の4人。
武史「まあ…そういうわけだ」
友一「…そうか、悪かったな、二人とも、俺たちのせいで長い間」
良子「友一」
良子、泣きそうになる。
友二「おめでとう、母さん、父さん」
良子、泣き始める。
武史、良子の肩を抱き。
武史「…ありがとう…てっきり反対されると思っていたよ…」
武史も涙をこらえる。
友一「母さんも父さんも、自分の幸せを見つけたんだろ、反対なんてしないよ、なあ」
友二「うん」
武史、笑顔で。
武史「よし、今日はパーティだ、母さん、ピザ取ろう、ピザ」
良子、涙をぬぐい。
良子「そうね」
立ち上がろうとする良子。
友一、一際大きな声で。
友一「で…」
固まる。武史と良子。
武史「…なんだ?」
笑顔の友一、友二。
友一「どっちについていけば良いの、俺たちは?」
笑顔の友一、友二。
本当に嫌そうで悲しそうな顔をする武史と良子。
○元の増田酒店・外
悲しそうな顔で、遠くを見つめる2人。
友一「あの顔、忘れられないよな」
友二「忘れられない、初めて見た」
友一「人ってあんな顔出来るんだな」
友二「写真に収めておきたかったね」
同時に煙草を吸う2人。
友一「どうよ?そっちの新生活は?」
友二「まだ、慣れないかな」
友一「まあ、お母さんがタメだもんな」
友二「気が気じゃなくて」
友一「なんかさ、AVみたいだな、やめとけよ、手ぇ出して、バレたら、さすがに追い出されるぞ」
友二「しないよ、でもさ…今度、父さんに内緒で飲み会することになったわ」
友一「まじかよ、きっついなー」
友二「なんか、ガンガン浮気されてるっぽい」
友一「きっついなー、俺も行って良い?」
友二「無職には興味ないって」
友一「きっついなー」
友二「そっちはどうなの?」
友一「え?うーん…」
友二「妹が出来たんだろ」
友一「うん」
友二「そっちの方がAVみたいじゃない」
友一「まあな、最高だよな、血の繋がらない妹と一つ屋根の下で……もう、妄想が止まらないよ、とか思ってたんだけどさ」
友二「なに?」
友一「ブスなんだよ」
友二「ブスかー」
友一「しかも弁護士なの」
友二「うわー、弁護士のブスって、一番たち悪いやつじゃん」
友一「そうなんだよ、顔合わせの時になんて言われたと思う」
友二「なんて言われたの」
友一「変な事したら法的措置も辞さないって」
友二「難しっ」
友一「だから、俺言ってやったの、ブスには興味ありません、安心してくださいって」
友二「おー」
友一「そしたら、名誉棄損だっつって」
友二「え?」
友一「明日、裁判所行ってくるわ」
友二「まじ?」
友一「まじまじ、お前さ、弁護してよ、すげー怖いよ、平日だけど暇だろ」
友二「暇、行く行く、良いの素人で?」
友一「良いだろ、じゃあ、後でメールするわ」
友二「うん」
2人、同じタイミングで煙草を捨てる。
友二「コーヒーと煙草買ってくるわ、ブラックで良い?」
友一「悪いな」
店内に入っていく友二。
背伸びをする友一。
友二、手ぶらで戻ってくる。
友一「コーヒーは?」
友二「ああ、金無いの忘れてた」
2人、遠くを見つめる。
友一「…2人で会社でも始めるか」
友二「何するの?」
友一「なんかさ、こう、クリエイティブなことをしたいんだよね」
友二「いいねー、やっぱ何かを生み出す仕事って良いよね」
2人、笑顔で遠くを見つめる。
雲一つない青空。
友一「逆転しような」
友二「うん」
友一「とりあえず、明日の弁護よろしく」
友二「任せとけって」
おしまい
--------------------------------
あとがき
いかがでしたでしょうか?
これは、2016年に撮影した「大和の兄弟」という作品の基になった脚本です。
パソコンを整理していたら、このころ書いてた脚本が色々出てきまして、
このまま誰にも読ませずに、ただただハードディスクの中に入れておくのもなぁと思い、勇気を出して公開してみました。
久しぶりに読み返したら、友一と友二の会話が思いのほか可愛くて、自分で笑ってしまいました。
「ブスなんだよ」で笑いました。
なんだか、「空に消えていく煙。」「雲一つない青空。」とか、以外とそれっぽいト書きをちゃんと書いてますね。
ただ、最後の友一のセリフ「逆転しような」は、ちょっと要らないですかね、なんか聞いてられないですね、
逆転しようとしてるってことは、負けてると思ってるってことですもんね、
友一にはそんなこと言ってほしくなかったなぁ。
がっかりです。
そして「ブスなんだよ」を(泣く泣く)カットして撮影したのが「大和の兄弟」です。
5分の短い作品です、もしお時間ありましたら是非「明日の弁護」と見比べてみてください。
山村もみ夫。
Comments