愛の父の愛
人 物
木下太一(48)会社員
木下愛(18)その娘・大学生
吉田優司(21)愛の先輩
坂本奈緒(18)愛の同期
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○木下家・外観(夜)
住宅街にある、2階建ての一軒家。
表札には『木下』とある。
愛の声「なんなのよそれ!」
ガタンという大きな音がする。
○同・ダイニングキッチン(夜)
10畳ほどの広さ。
カウンターキッチンの手前に、2人用のダイニングテーブルがあり、片側に木下太一(48)が座っている。
木下愛(18)が、太一の対面に立ってテーブルに両手を付いている。
ダイニングテーブルの上には2人分のコンビニ弁当と、お茶。
お茶がグラスの中で揺れている。
愛、太一を睨みつけており、息が荒い。
太一、持っていた箸を置き。
太一「だって、嫌なんだもん」
愛「嫌って何よ、ダメならダメって言いなさいよ、それをウジウジウジウジウジウジ」
太一「だって……」
愛「だってじゃない!」
太一「じゃあ、ダメだって言ったら、行かないでくれるわけ?」
愛「それは、行く!」
太一「ほら、だから、嫌だなぁって言うしかないじゃん、あー嫌だなぁ……嫌だ嫌だ……」
愛「気が滅入るのよ、目の前でずっと…大丈夫だって、真面目なサークルだから……」
太一「(諭すように)ほら、食事中なんだし、一旦座りなさい」
愛、しぶしぶ席につく。
太一、愛の目をじっと見て。
太一「いいかい愛ちゃん、大学に、真面目なサークルなんて無いんだよ」
愛、立ち上がり。
愛「あるわよ!」
太一「ないの、決まってるの」
愛「なんでわかるのよ」
太一「いいか、大学っていうのは本来勉強とか研究をするところでしょ、真面目な人は、サークルなんて入りません、大学入ってサークル活動って……もうブレブレ、目的見失ってるもの、ブレてるわー、そんなブレてる奴らが集まってさ、ブレた4年間を過ごすのがサークルなんです」
愛「は? 両立すればいいんでしょ、勉強の息抜きっていうか……」
太一「両立? 両立なんて言ったって、本来勉強するはずの時間を使ってるんだよ、中には留年してる奴もいるんじゃないの、どうだ? いるだろ、一人くらい?」
愛、押し黙る。
太一「ほらね、親の金で入った大学で、親の金で留年して、親の金で酒飲んで、大きな声で言うんだよ、勉強も大事だけど、俺たちは今しか出来ないことをやってるんだ、俺たちは今を楽しんでいる、どうだい? 俺たちはかけがえのない仲間を手に入れたんだ、これは何者にも代えがたい財産だって、ところが気がつくことになる、まずは就職活動、聞かれるわけよ、大学生活で一番打ち込んでいたことは? サークル活動? 人間関係の大切さを学びました? 屁のつっぱりにもなりませんよ、案の定、妥協した会社に入って思うんだ、ああ、自分はなんて無駄な時間とお金を使ってしまったんだ……ってね」
愛、ふてくされる。
太一、お茶を飲み。
太一「えーっと、何のサークルだっけ?」
愛「……テニス……とラグビー」
太一「ブレてるねー良い感じだねー」
愛、何か言い返そうと口を動かすが、太一が先回りして喋らせない。
太一「で? で? 合宿で、何するんだっけ?」
愛「…フットサル」
太一「バカなの? ねえ? もう何がしたいの、このサークルは? 挙句の果てに、サークルの名前、なんつったっけ?」
愛「……ミックスジュース」
太一「エッロ!」
愛「何処がエロいのよ!」
太一「……主に、ラグビーとミックスジュース」
愛「全然エロくない!」
太一「エロいよ! ミックスジュースの語感とラグビー部のイメージ……あー嫌だ、嫌だ…」
太一、愛がうつむいているのに気付き、言葉を止め、恐る恐る様子を伺う。
太一「愛ちゃん? あーいちゃん」
愛、うつむいたまま泣き始める。
太一「あれ? 嘘、やだ、泣いてるの?」
愛、ボロボロ泣きながら立ち上がり、嗚咽混じりに。
愛「なんでそんなこと言うの! いいじゃん大学入ってさ、少しぐらい遊んだって! そりゃあさ、学費は出してもらってるからさ、偉そうなことは言えないけどさ、合宿代はバイトして貯めたし、毎月、たまに払えないけど、2万円生活費も入れてるしさ、ご飯だって、今日は、コンビニになっちゃったけど、結構ちゃんと作ってるし、頑張ってるもん! なのに、なんで遊んじゃいけないのよ、大学で友達出来なかったらどうすんのよ! もう嫌だ! お母さんが居ればよかったのに! うわーん、お母さーん……お父さんよりお母さんが良いよー……」
太一、おろおろしている。
太一「愛ちゃん、落ち着いて、ほら、お茶」
太一、お茶を差し出す。
愛、一気に飲み干し、一瞬落ち着くが。
愛「……お母さーん……」
太一、慌てて、弁当を取り、愛の口に押し込む。
愛、もごもごして一瞬静かになるが、吹き出し、声にならない泣き声。
太一「わかった、わかったから、もう行っていいよ、遊んでこい」
愛、泣き止み。
愛「お小遣い」
唖然とする太一。
○ペンションけやき・外観
四方を木に囲まれており、車一台が通れるほどの道が一本通っているだけ。
玄関前には駐車スペースがある。
○同・駐車場
バスが入ってくる。
扉が開き、男女20名ほどが降りてくる、愛の姿もある。
皆がトランクから荷物を出したり、雑談をしている中、愛は、気持ちよさそうに伸びをしている。
吉田優司(21)が最後に降りてくる。
吉田、後ろから愛の肩を叩き。
吉田「ほら、さっさと荷物取っちゃいな」
愛、ビックリするが、笑顔で。
愛「はい、すみません」
愛、トランクの方へ走る。
吉田、全員を見回し。
吉田「はーい、注目ー……じゃあ宿に挨拶してくるから、ちょっと待機してて」
一同「はーい」
吉田、ペンションの中に入っていく。
吉田を目で追う愛。
坂本奈緒(18)が愛に近寄り。
奈緒「いやー、ペンションだよ、軽井沢のペンション、大学入ってサークルの合宿で軽井沢だって、ベタだねー、見失ってるよ、何しに大学入ったんだか……」
愛「あはは」
奈緒「なに?」
愛「いや、うちのお父さんと同じこと言ってる」
奈緒「お、話合いそうだね、親父さんと」
愛「見失ってるの分ってるのに何で来たの?」
奈緒「え? うーん…… 流れ?」
愛「……だよね」
吉田が戻ってきて。
吉田「はーい、注目ー、今日からお世話になるペンションの木下さんです」
吉田の後ろから、太一が現われる。
太一「どうも、どうも」
愛、目をこする。
太一「このペンションの管理人をしております、木下と言います、いやー、なんか良いですねえ、若い男女が、一つ屋根の下でねえ、羨ましいなぁ、もう、何が起こってもおかしくないもんね」
一同、笑うが、愛だけ絶句。
太一「まあ、楽しんで行ってください、よろしくお願いいたします。」
吉田、一同に向かい。
吉田「はい、挨拶、よろしくお願いします」
吉田を含め、一同お辞儀をして。
一同「よろしくお願いします」
愛だけお辞儀に出遅れる。
太一と愛の目が合う。
太一、にやりと笑う。
愛、怒りたいが声を出せない。
吉田が、お辞儀を終え。
吉田「じゃあ、入ってー、30分休憩で、13時に着替えてここ集合で」
一同、返事をしながら中に入っていく。
太一もそれに紛れ、楽し気に話しをしながら中に入っていく。
奈緒、絶句している愛に。
奈緒「なんだか、軽そうなおじさんだね」
愛「……話合うんじゃない?」
○同・管理人室
ソファに座っている太一。
愛、太一の正面に立ち、笑顔を作り。
愛「なにしてんの?」
太一、つられて笑顔で。
太一「管理人」
おしまい
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あとがき
ここでおしまいなんです。
続きが気になる……
これ書いたのも2016年ですね、
タイトル、どうなんだろうか……なんかこう……
もっと無かったのかなぁ。
愛と太一は、形を変えて「朝子と梅子と葉子の話」という作品で、
主役の1人である、葉子と、その父(春夫)というキャラクターで登場します。
軽井沢で撮影できる予算があったら、
いつか愛と太一の物語も作ってみたいなぁ。
なんとなく、吉田は愛に気がありそうだし、
奈緒と太一のかけあいも面白そうだし、
愛のお母さんのことも気になる。
やりたい、いつかペンション貸切って。
山村もみ夫。
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